衛星放送で「ジョニーは戦場へ行った」を観た。
観るまでのイメージは、社会派、反戦、赤狩り・・・・。
けれど、観てみてまったくその認識は思い込みだった、と知った。
確かに社会派であり、反戦映画だろう。
最後に流れるフレーズは強烈だ。
「1914年以後・・・・」という、戦死者の数、祖国への殉死の甘美さへの皮肉。

「祖国に命を捧げることは美しく輝かしい」という赤い字のテロップ。

映画の内容・・・。
昨日に放送されたのと同じく、この映画もカラーとモノクロの映像のコントラストがはっきりしている。
戦争で顔を失い、身体の機能を失った青年の現実=今はモノクロで、思い出や空想はカラーなのだ。

延髄とわずかな動き、耳、皮膚感覚だけの外界との接点。
それでも、彼はひとの動きやひとの空気をとらえることができるのだ。

誰もが身体の機能と同じく意識や脳の機能が失われている、と思っていた青年の内面や脳内は残酷なまでに聡明で鮮明だ。
人間の世界に戻りたい、と願う彼にただひとり、心から寄り添っていた看護師の行い。
それは、「白い影」の志村倫子のようだった。
いや、原作の「無影燈」の倫子、の行い。
生と性は切り離せない。
それがまた、なんともいえずに胸が詰まる。

彼は思いつく。
自分の言葉を伝える方法。

モールス信号。

懸命に動く頭を動かし首を振り、彼は言葉を紡ぐ。

SOS、SOS、SOS・・・・

単なる反射の動きでない、痙攣でない、と気づいた看護師は、軍医、上官を連れてくる。
モールス信号を理解する男は、ジョニーの言葉に苦悶の表情を浮かべる。

「・・・彼は自分を外に出してくれ、カーニバルの見世物に出して見せてくれ、と言っている。
ひとが生み出した僕を見せてくれ、と言っている。
そう出来ないのなら、殺してくれ、殺してくれ、殺してくれ・・・。」

そして、看護師は彼の願いを叶えるため、彼の肺に空気を送るチューブを閉ざす。

感謝の思いでいっぱいの、ジョニー。

それなのに、看護師の行為が見つかってしまう。
死ぬことが出来ないジョニーと、彼が社会に知られると困る軍部。

ジョニーは真っ暗な世界に見捨てられる。

そして、真っ暗な闇の中でジョニーはモールスを打ち続ける。

SOS、SOS・・・・・

これは反戦映画なんだろうか?
私は「ロレンツォのオイル」という映画を思い出した。
副腎白質ジストロフィー(ALD)という遺伝性の難病。
あらゆる身体の機能が失われ、非常なる症状と苦しみから本人も家族も悲惨な状態に陥ることが多い。
映画を観ていても、その描写が続くと、観ていて辛かった。
だが、主人公の夫婦は、特に母親は狂的なまでの熱意と執念であきらめることをせずに、とうとう治療薬を見つける。
その子供のロレンツォもまた、失われているのではないか、と思われていた脳の機能は損なわれずに残っていた。
それがわかった時の、鳥肌がたつ感じ。
あれを思い出したのだ、今夜。

ロレンツォは母のおかげで人間の世界に戻ることができた。

ジョニーは真っ暗な世界に見捨てられる。

戦争で不治の怪我を負うのは不幸だろう。
けれど、残された魂や機能を閉じ込められたまま生き続けなければいけないこの、残酷さ。

罪を償って牢獄に入ったとしても、彼以上の縛りはない。

世界中の病や怪我やさまざまな事情で、見捨てられ、かえりみられないひとのことを考えた。

きっと、ジョニーは戦場でないところにも、生まれ続けている。

コメント

エロちゃん
2007年5月16日8:13

さらさ様おはようございます。
どんな言葉を書いていいかわからないのに、コメントに
きてしまいました。
これは読んでみたいのに、どうしても手に取れないものの
1冊です。
読後すぐには抜け出せず、引きずってしまう自分がいるから。
何も分からなくなってしまうというのは、ある意味幸せな時もあるのかもしれない。
心が明確なのに、体を呪縛される不幸。逆もまた然り。
健常な体に、呪縛された心。
ああ、やっぱり支離滅裂。
すみません…。

さらさ
さらさ
2007年5月18日1:10

エロちゃんさんこんばんは。

返事が遅くなってしまいすみません。
>どんな言葉を書いていいかわからないのに、コメントに
きてしまいました
いえいえ、そんなことは・・・。
私も迷いながらも、いつもコメントを書けずにいる時がありますが、書いてくださって嬉しいです。

「ジョニーは戦場へ行った」は、作られてから30年以上経つのに、時代を超えるものがありました。
優れた脚本、というのはやっぱりすごいです。
活字では読んでいませんが、もっとプロガバンダ的なイメージがあったのですが、もっと普遍的なものを感じました。

>健常な体に、呪縛された心。
あるいは、心が凍りついたり蝕まれること、も現在の不幸なのかもしれません・・・。

私もうまく書けませんが、わかるような気がします。

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